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最高裁判所第一小法廷 昭和51年(オ)172号 判決

上告人(原告)

森正次

ほか一名

被上告人(被告)

京都府

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人上村昇、同吉田克弘の上告理由について

原審が適法に確定した事実関係の下においては、本件道路の設置、管理に瑕疵がないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、理由がない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 岸盛一 下田武三 岸上康夫 団藤重光)

上告理由

第一点 原判決の判断に判決に影響をおよぼすことが明らかな採証法則の違背ないし国家賠償法第二条の解釈を誤つている。

すなわち

一 三の坂に車道を区別した歩道を設けガードレールにより或いは歩車道に高低をつけなかつたことは道路の設置又は管理の瑕疵とすることはできないと判断している。

原審は当時歩道が設けられていて被害者森政寛らがその歩道上を通行していたとすれば控訴人太田の車が凍結した路上を運転の自由を失い滑走しても、或いは追突するという本件事故は避けられたかも知れないとし、更に本件道路は東行西行各一車線の幅員七メートル余の道路でかなり交通量の多い坂道であること、冬季には時に路面が積雪により凍結する事実を認定しながら通行者が通常の注意を払えば事故を避けることができるといつている。しかしながら被害者は若年の中学生であり、しかも原審証拠にあらわれているとおり本件道路附近は名にしおう坂で本件交通事故発生前においても人身事故が多く発生しているのであるから原審の判断には判決に影響をおよぼすことが明らかな違背がある。

二 原審は本件事故当時道路が積雪により路面が凍結していることを認めながら一般に積雪地帯といわれる地域の道路とか、最低速度制限のある高速道路とかの特殊の目的を持つ道路の場合のほかは一般普通道路について可能な方法によつて徐雪又は融雪する人的物的設備を常時ととのえて道路通行上の危険を即時排除し安全性を保持しなければならないとする道路管理上の義務を地方自治体である道路管理者に負わすことは道路の安全性の性質にかんがみ適当でないといつている。しかしこれは本件事故のとき現に路面が凍結し道路管理者が巡回し融雪の努力をしていたが及ばず本件事故が発生したのであるから管理者の道路管理に欠陥があつたことは明白である。

三 危険の表示又は凍結除去のための設備について本件は通行者である少年がその後方から来た車にはねられたという事案である。

そこには運転者の過失があつたことは原審認定どおりであるが府に何らの責任がないとはいえない。

本件道路は通称三の坂といわれているところでありこの部分は山を切り開いて設置したため特に他の部分と比較して日常でも「すべり易く」且つ冬季には凍結しやすいところでありスリツプ事故が多いところである。

一本の道路のうちこのような部分がある場合は三の坂に達する前後に運転者に特段の注意をうながす標識を立てるとか、融雪剤を設置し通行者に配布させるかの措置を講ずべきであるのに府は何もしていないのである。

これでは到底管理をつくしているとはいえない。

以上

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